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政策提言

外国人研修生権利ネットワーク

 近年、外国人研修・技能実習制度に関して、私たち外国人研修生権利ネットワークの取り組みをはじめ、多くのマスコミ報道もあり、その極めて深刻な問題状況が広く知れ渡るようになってきた。
 2007年12月に出された政府の“規制改革会議(第二次答申)”ですら、その「問題意識」として以下のように述べるに至っている。

「研修生が労働基準法上の労働者でないために法的保護を受けられず、実質的な低賃金労働者として扱われる、技能実習生に対し、雇用契約に明記された賃金が支給されない、時間外労働に対する割増賃金が正当に支給されない等の違法な事案や、パスポートや通帳を強制的に取り上げる等の不当な事案が発生している。また、送出し国側の機関等が、出国前に多額の保証金等を研修生・技能実習生から徴収していたり、そのために研修生・技能実習生が出国前に多額の借金を強いられる例等があり、このことが、我が国入国後に研修生・技能実習生が失踪し不法就労に走る原因となっているとの指摘もある。このような受入れ機関等の不正行為に遭遇しながらも、研修生・技能実習生は、自らが途中帰国させられることを恐れ、被害の実情を入国管理局、労働基準監督機関等に申告することを躊躇する傾向にあるため、不正行為が減少しないとも指摘されている。」

 私たちも、こうした「問題意識」を共通にするものであるが、現象的に現れてきた問題点を見るだけでは、まったく不十分であると考えている。現在の外国人研修・技能実習制度は、もはや制度の根幹が破綻しているのであり、さまざまな問題点の羅列や、その改善策で対応できる段階をとうに超えている。したがって、制度の本質=構造的な問題に踏み込んだ認識が求められている。
 外国人研修・技能実習制度は、本来、「我が国で開発され培われた技術・技能・知識の開発途上国等への移転を図り、当該開発途上国等の経済発展を担う人づくりに寄与することを目的として創設された」ものである。しかし、制度の現状は、かかる国際貢献の理念から遠く離れ、海外との厳しい競争関係にある技術レベルの高くない分野や労働条件が劣悪な分野に存在する、絶対的な労働力不足を補うものとして、すなわち労働力の確保策として実施されている。実際、研修・技能実習を実施している企業の7割以上は50人未満規模であり、中小零細企業の労働力不足対策であることは明白だ。
 こうして国際貢献という建前と、労働力対策という実態との乖離の狭間で、外国人研修生・技能実習生に対する人権侵害が頻発し、「外国人研修生は現代の奴隷である」という批判も受けている。近年、暴力事件も珍しくなくなっており、性的暴行や地域によっては暴力団の関与も見られるようになり、中には、実質的に「人身売買」に該当すると言わざるを得ないケースもある。もはや制度破綻と言っても過言ではない。

 私たちは、外国人研修・技能実習制度の本質は、転職がなく帰国措置を担保できる「管理された極めて安価な安定的な労働力」として外国人を活用する、最大3年間の「日本型短期ローテーション政策」=外国人労働力政策に他ならないと考えている。そして、「短期ローテーション政策」を維持するために、研修生・技能実習生を縛る異常とも言える管理=人権侵害が行われている。本質的な問題は、制度が建前のとおりに実施されていないことにあるのではなく、制度設計そのものに問題の核心がある、と言うべきである。
 少なくとも、本来、国際貢献を理念とする研修・技能実習制度は、労働力政策とは全く目的を異にするものであり、両者は別個に設計されるべきである。
 私たちは、純粋な外国人研修制度は維持しつつも、労働力政策としての外国人労働者の導入は、別途「労働」ビザの発給によるべきである、と考える。こうした研修と労働力政策を厳格に分離する枠組みが、今後の外国人研修制度の基盤となる。

 まず、外国人研修制度は、純粋な「技術・技能・知識の移転」に限られるべきである。具体的には、「研修」は、関連する基準省令の原則型(研修生は受入れ企業の従業員20人に対して1人とし、非実務研修の時間を全体の3分の1以上とることなど)に限定すべきであり、法務省告示による例外の拡大はすべきでない。特に、問題が多発している「団体監理型」での受入れは廃止すべきである。
 次に、技能実習制度は、「労働」でありながら職業選択の自由(他企業への移動)が認められず、技能実習生は労働者として不完全な立場におかれている。このことが、技能実習生の正当な権利主張を妨げ、受入れ機関及び送出し機関による様々な人権侵害行為を誘発している。従って、「技能実習」(在留資格は「特定活動」)という特殊な形態は廃止し、研修後もさらに働きながらスキルアップを望む者には、通常の「労働者」としての在留を認めていくべきである。
 こうした制度的な整理をした上で、国際研修協力機構(JITCO)は、廃止すべきである。
 付言するならば、2008年7月22日、自由民主党国家戦略本部の外国人労働者問題PTが、「外国人労働者短期就労制度」の創設を提言した。ここでは、技能実習への移行を予定した「研修」は「短期就労制度」の創設に伴い廃止する、とした。
 しかし、「他企業への転職は認めない」としている。もし、「職業選択の自由」を否定すると「従属労働」性を極めて強化することになり、労働条件や人権上の問題があっても表面化することが困難になる。研修・技能実習制度の本質が「短期ローテーション政策」にある以上、「短期就労制度」は「技能実習制度の拡大版」とも言うべきものにほかならない。こうして労働市場から隔離された空間を作ることは、現在、人権侵害や労働搾取など深刻な問題を引き起こしている環境をより大規模に継続させるおそれが強い。
 したがって、外国人労働者の導入策においては、職業選択の自由を含む労働権の保障、労働市場の健全な機能の確保を図りながら制度設計が考案されなければならない。

〈現在の制度に対する改善策=次善策〉

 現在の外国人研修・技能実習制度を前提とした場合に、そのあるべき政策について以下のとおり提言する。

(1)研修・技能実習制度全体を掌握し、責任をもって一元的に対応する政府機関を設置すべきである。少なくとも、当面、「外国人研修関係省庁連絡会議」を設置し、制度の適正な運用及び制度の再検討に向けて実効ある政策を打ち出すべきである。また、継続的に研修・技能実習制度の問題点を分析・整理して政策的な提案したり、大きな問題が起こった場合に関係省庁を統一的に指揮して対応することができる「研修・技能実習オンブズマン」を設置すべきである。
(2)研修・技能実習制度が様々な深刻な問題点を有することに鑑み、制度の問題点を規制するとともに、制度全体を有効に整備する外国人研修に関わる基本法を制定すべきである。

1)極めて頻繁に見られるパスポート取り上げや強制預金、保証金・違約金の定め、管理費等名目でのピンはねなどを法律上明確に禁止すべきである。

2)研修契約・労働契約の作成に当たっては、母語での標記を義務化すべきである。受入れ企業には、研修生・技能実習生の使用する言語について能力を有する従業員等がいることを、受入れ条件とすべきである。

3)技能実習への移行に際しての技能評価を厳しく(例えば、基礎2級レベルの廃止)して、きちんと研修していない者は合格できないように(例えば、合格率を半数程度に)すべきである。合格率の低い(例えば、3割未満)受入れ企業や受入れ団体に対しては、その後の研修生の受入れを制限あるいは停止すべきである。技能評価試験の場所・方法も、すべて公的機関において厳正に行うべきである。

4)受入れ企業に対する資格認定制度を設けて、就業規則の作成、時間外労働手当・休日労働手当等賃金の適正な支払、健康診断の実施等、労働関係法規の遵守を条件とすべきである。また、受入れ団体が協同組合等である場合には、管轄する都道府県や経済産業局に、研修生受入れ企業のリスト、その職種、研修生・技能実習生の数等について、毎年報告を義務づけるとともに、その報告内容を情報開示する制度とすべきである。

5)不正行為認定された受入れ団体については、団体名や不正行為内容を全て公表することとすべきである。また、受入れ企業に不正行為があった場合には、その受入れ団体も責任を負う制度とすべきである。

6)問題が発生し当事者が請求した場合には、関係行政機関等(法務省・厚生労働省・ 外務省・JITCO等)に保有されている関係資料(研修契約、研修計画、技能実習契約、技能実習計画、送出し機関との契約・誓約書等)を情報開示する制度を採用すべきである。

(3)研修・技能実習制度が適正に運用されるよう、日本政府自体が、送出し国側に対し、制度の内容や日本の法律について理解を求める外交的努力をすべきである。送出し国側との2国間条約の締結などを含め外交交渉を行い、外国人研修制度の運用の改善を図ること。また、保証金・違約金を定めたり、生活上の制約(外出・外泊・遠出の禁止、携帯電話の所有禁止、労組加入の禁止など)を定めるなど、制度趣旨に反する送出し機関からの研修生の受入れは、拒否すべきである。
(4)研修生・技能実習生は受入れ企業によって、社会から隔離状況に置かれている場合がある。したがって、研修・技能実習の実情や研修生・技能実習生の生活実態を把握するためには、受入れ企業の抜き打ち調査、研修生・技能実習生からの直接の事情聴取などを実施する必要がある。特に、労働基準監督機関は、技能実習を行っている全企業への立入り調査を実施すべきである。その結果、研修基準、技能実習基準や労働法規違反があった受入れ企業については、その企業名を公表すべきである。
(5)研修生・技能実習生の権利保護のため確実な権利告知の措置を採るとともに、研修  生・技能実習生が気軽に相談でき、問題解決できる権限・機能を有する公的相談窓口や公的監督機関などを設置すべきである。また、権利主張した研修生・技能実習生に対して、受入れ企業などが途中帰国を強制するのを防止するため、緊急連絡先を告知したり、一時的に避難させることのできるシェルターを設置するなど具体的措置をとるべきである。さらに、研修生・技能実習生の途中帰国の際は、公的監督機関に事前届出を義務づけ、受入れ機関関係者を除外して公的監督機関により直接本人への意思確認を行い、出国手続においてもチェックするべきである。
(6)近年、研修・技能実習先が倒産したり、不正行為認定を受けたりした場合、既に来日している研修生・技能実習生については、新たな受入れ先への移動が可能となってきている。しかし、適当な研修・実習先の確保は主に受入れ機関側に任されており、移動先が見つからず帰国を余儀なくされることも多い。移動先の紹介や未払いの研修手当・賃金の確保、強制貯金の返還など、研修生・技能実習生の権利保護に関しては、入管当局及び厚生労働省(各労働局)が責任をもって対応すべきである。

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